近年、GPSを始めとしたGNSSを用いた位置情報の活用が進んでいる。例えば、マップアプリのナビゲーション機能、検索結果のパーソナライズ、持ち物に付ける紛失防止タグ、農耕機械の自動化などである。
しかし、GNSSの屋内環境での活用は限定的であり、依然として課題が多い。これは、GNSSが衛星から電波を受信する仕組み上、建物内では電波が届きにくく、特に高さ方向の精度が低下するためである。また、一般的なスマートフォンなどのGNSS受信機では、数メートルから数十メートルの誤差が生じることがある。
GNSS以外にも位置推定手法は存在する。BluetoothビーコンやRFIDなどは屋内環境に対応しており、GNSSと比較して高い精度を実現できるものの、専用機器の設置や運用に高いコストがかかるという課題がある。
一方で、屋内位置推定には一定の需要があると考えられる。例えば、本校の校舎は構造が複雑であり、新入生や文化祭来場者が現在地を見失う場面がしばしば見受けられる。実際、筆者が初めて本校を訪れた際も、パンフレットの地図があったにもかかわらず迷ってしまった。また、文化祭では来場者が同じ移動ルートに集中し、混雑が発生していた。さらに、オフィスビルにおける災害時の避難誘導支援など、本校以外でも屋内位置推定の必要性は高いと考えられる。
そこで本研究では、現代においてほぼ全ての施設に設置されている既存インフラであるWi-FiのAPに着目した。本校でも、各教室にAPが設置されメッシュネットワークを形成している。これを活用することで、追加コストを抑えた簡易的な位置推定が実現できるのではないかと考え、実証実験を行うこととした。